あわいを往く者

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九十九の黎明 第三章 逃げる者、追う者

  
  
  
   第三章  逃げる者、追う者
  
  
 綺麗な人だね。誰かがウネンの母のことを語るとき、必ずと言っていいほど、一言目はその言葉から始まった。
 そして、十人が十人、「でもなあ」と逆接の単語で息を継ぐのだ。でもなあ、いくら見た目が綺麗でも、あれじゃあなあ、と。
  
 どこから手に入れてきたのか、母はよく酒を飲んでいた。
 酒に酔うたびに、母はウネンを詰った。最初っから女の子だと分かっていたら、こんな苦労をせずにすんだのに、せめて男の子ならば逃げた甲斐もあったってものなのに、と。
「わたしがこんなつらい目にあっているのは、お前のせいなんだよ、ウネン」
 自分が、ウネンのためにどれほどの犠牲を払ってきたのか。ウネンの世話をすることが、どれだけ大変だったか。ウネンさえいなければ、自分はもっと楽に生きてこられたはずだったのに。
 なにも言えず膝を抱えて俯くウネンに、母は何度も何度も、言葉というやいばを突き刺した。傷口はもうとうにぐずぐずになってしまっていて、ひと突きごとに刃先はおろかつかまでずっぷりと中へと沈み込んでゆく。だが、最初は泣き喚きたくなるほどだった痛みが、不思議なことに、しばらくすると何故かだんだん気にならなくなってくるのだ。
 その頃には酒が切れ、母は今度は、涙を流しながらウネンを抱きしめた。きついことを言って、ごめんねえ。でも、お前のことが嫌いなわけじゃないんだよ。好きじゃなければ、こんな何の役にも立たない子供を、今まで育てているわけがないじゃないか。ああ、可愛いわたしの子。あんただけはどこへも行かないでおくれ。わたしを一人にしないでおくれ。
 母の腕の中は、とても温かだった。冷え切っていた手足に次第に熱が戻ってくるのを感じて、ウネンはうっとりと目を閉じた。他でもないその母が穿った、心の奥の傷口から、血潮ならぬ命をぽたりぽたりと滴らせながら。
  
 どうやら、ウネンの母は、どこかから逃げてきたらしい。
 腹の子が男なら、その子を殺すと言われんだ、と彼女は言った。女の子ならば将来使が、男の子は駄目だ、無駄飯喰らいを置いておく余裕はない、そう言われたから必死の思いであそこを飛び出した。なのにどうだい、産まれたのは女の子で、泣くわ喚くわ苦労ばかりをかけてくる。こんなはずではなかったのに、と、母は形のよい唇を歪ませた。
「確かに、仕事は楽ではなかったけれどね、生活には困らなかったもの。綺麗な服を着て、化粧をして、沢山の人にちやほやされていたのに、それらを全部捨てるなんて、わたしは全くどうかしていたわ」
 それなら今からそこへ帰ろうよ。ある日、たまりかねてウネンがそう言えば、母は鬼気迫る形相で、ウネンの頬を思いっきり張り倒した。小屋の隅まで吹っ飛ばされたウネンは、このことは言ってはいけないことだったんだな、と学習した。
  
 ウネンが物心ついた頃には既に、父親の姿はどこにもなかった。母は、夫は行商人だと周囲に語っていたが、それが夫の不在を取り繕うための嘘であることは、皆、分かっているようだった。
 一度ウネンが、「父さんはどんな人?」と母に訊いたことがあった。それに対する母の答えは、「さあね」の一言だった。
 母が答をはぐらかしていたわけではないということをウネンが悟ったのは、彼女がもっと大きくなってからのことだ。母と二人で住んでいたぼろ小屋を、ある時を境に見知らぬ男達が入れ代わり立ち代わり訪れるようになった意味も、そのたびにウネンが「良いと言うまで外で遊んでおいで」と小屋の外に出された理由も、今となってはよく解る。貧しさが、母を、命からがら逃げだしてきた世界に引き戻してしまったのだ、ということも。
  
  
 畑向こうのおばさんが、「ちょっと、あんた」とウネンを手招きしたのは、ウネンが五歳の誕生日を迎えてすぐの、とある初夏の昼下がりだった。
 その日も、ウネンは昼前には母に、呼ぶまでは家に戻ってくるな、と小屋を出され、川縁かわべりに腰かけて木の葉の舟を水に流して遊んでいた。
「暇なんだろ? ちょっと水汲みを手伝ってくれないかね」
 おばさんが差し出した水桶を、ウネンはおずおずと受け取った。
「ウチの末っ子が隣町までお使いに出てくれてるんでね、人手が足りないのさ。ほら、運んだ、運んだ」
 言われるがままに、ウネンは水の入った桶を両腕で抱えた。両手に桶をさげたおばさんが、こっちだよ、とウネンの前を歩く。おばさんが持つ桶に比べて、自分の手元の桶に入っている水がかなり少ないような気がしたが、ウネンは黙っておばさんのあとをついていった。
 緩やかな坂道をえっちらおっちら登り、ようやっとおばさんの家に着いた時には、ウネンはへとへとになっていた。おばさんに水桶を手渡すや、力無く地面にへたり込む。
 おばさんは、怒っているとも悲しんでいるともつかない難しい顔をして、ウネンを見おろした。
「……ご苦労だったね。これはお礼だよ」
 差し出された小さなパンを、ウネンはしばしぼんやりと見つめた。それから、はっと我に返り、慌てて首を横に振りまくった。
「いいから、食べなって。お腹、空いてるだろ」
 母さん以外の人から食べ物を受け取ったら、また母さんに怒られてしまう。ウネンは、座り込んだまま、必死の思いでじりじりと後ずさる。
 おばさんが、大きな溜め息をついた。
「あんた、この間、あたしがあげた干し芋、捨てただろ」
 先日、「これお食べ」とおばさんに渡された干し芋を、母に怒られて道端に放り出したことを思い出し、ウネンは「ごめんなさい!」と地面に突っ伏した。
「ごめんなさい、ごめんなさい、もうしません……!」
 頭を抱え、できる限り身体を小さくし、身構える。だが、いつまでたっても何も起こらないので、ウネンは不思議に思っておそるおそる顔を上げた。
 おばさんが、さっきと同じ、怒っているような、でも悲しんでいるような顔で、じっとウネンを見つめて立っていた。
「『もうしない』っていうのが、『食べ物を捨てない』ってことだというなら、勘弁してあげるよ」
 おばさんはそう言うと、ウネンの手を無理矢理広げてパンを載せた。
「あんたは水汲みを手伝ってくれた。これはその代金なんだから、あんたは受け取らなきゃいけない」
「でも」
「今ここで食べてしまえば、あんたの母ちゃんには分からないさ」
 言うことを聞かないと、今度はおばさんに怒られてしまう。ウネンは仕方なくパンをかじった。
 久しぶりに食べるパンは、びっくりするほど甘かった。一噛みごとに、口の中はおろか鼻の奥までもが香ばしい香りでいっぱいになり、気がつけばウネンは夢中で口を動かしていた。あとからあとからつばきが溢れてきて、何度手の甲で口元を拭っても追いつかない。朝に、燕麦えんばくの粥を口にしたっきりだったこともあり、ウネンはあっという間にパンをたいらげた。
 うっとりとしながら指についていたパンの粉をねぶり終えて、一息ついた途端に、ウネンの背筋せすじを震えが走り抜けた。自分はなんてことをしてしまったんだろう、と、目を見開く。
 母さんもお腹が空いているだろうに、母さんに黙って、自分だけパンを食べてしまった。
 後ろめたさに押しつぶされそうになりながら、ウネンはふらふらと立ち上がった。おばさんが何か言っているようだったが、風の音が急にごうごうと大きくなったみたいで、よく聞こえない。
「ごめんなさい……」
 なんとか一言を絞り出して、ウネンはおばさんから背を向けた。そうして、何かに急かされるがままに、小走りで坂道をおりていった。
 茂みの向こうに自分達の小屋が見えてきたところで、ウネンは思わず足を止めた。どうすればいいのか分からず、じっとその場に立ち尽くす。
 しばらくして、戸が軋む音がして、小屋から一人の男が出てきた。口元に笑みを浮かべて、「またな」と小屋の奥へ声をかけている。
 男が町のほうへ去っていくのを見送ってから、ウネンはおずおずと茂みの陰から出た。
 母は、まだウネンを呼びに出てこない。けれど、ウネンは少しでも早く母に謝りたくて、小屋へと近づいていった。
 ウネンが勝手に一人でパンを食べたことを、母は物凄く怒るだろう。でも、あとから知られるよりは、ウネンが自分から正直に話したほうが、ずっといい。それに、ウネンは、この重苦しい気持ちをこれ以上一人で抱えていることができなかったのだ。
 おそるおそる戸口へまわり、ゆっくりと息を繰り返して気持ちを落ち着かせる。ウネンが戸に手をかけた時、中から、微かな、何かを啜るような音が聞こえてきた。
 立て付けが悪く、どんなに頑張ってもきちんと閉まりきらないおんぼろの戸。ウネンは、そっとその隙間に目を近づけた。
 薄暗い小屋の中、母の背中が見えた。母は、前屈みになって、一心不乱に手を、頭を動かしていた。
 隙間風が小屋の中から運んでくるのは、甘酸っぱい良い匂い。川の向こう、ウネンが近づくことすら許されない、柵で仕切られた畑から香る、瑞々しい、赤い実の匂い。
 高らかに舌つづみを打ちながら、母は、赤い実を次々と口へ運んでゆく。一つ、また一つ。ああ甘い、ああ美味しい、と、幸せそうに呟きながら。
 ウネンは、音をたてないように気をつけながら、じりじりとあとずさった。自分は、今、見てはいけないものを見てしまったんだ、と悟るとともに、恐怖がウネンの胸に押し寄せてくる。自分が覗いていたことを、母さんに知られてはいけない、と。
 小屋から充分に離れたところで、ウネンは川のほうへ駆け出した。
 お日さまを閉じ込めたかのようにつや々と輝く赤い実。あんなもの、朝には小屋のどこにも無かった。小屋にあったのは、袋の底に残った、色の悪くなった燕麦の粉としなびた蕪だけのはず。
 川縁かわべりまでやってきて、ウネンは力尽きて草むらに倒れ込んだ。腕に、頬に、草の葉や小枝が突き刺さるが、ウネンは全く気にせず、そのまま手足を縮めて草の陰にうずくまる。
 どれぐらいの時が過ぎたのだろうか、遠くから、ウネンの名を呼ぶ母の声が聞こえてきた。
 ウネンは、のそりと草むらから身を起こした。
 夕焼けを背負って、母がウネンのもとへやってくる。
「ああ、こんなところにいたのかい。かくれんぼかい? 子供は楽しそうでいいねえ」
 母の様子は、いつもと何も変わらなかった。
「……おなかすいた」
「そうだね。わたしも、朝から何も食べていないから、お腹ぺこぺこだよ」
 ウネンは、ぼんやりと母を見上げた。
「何をぼさっとしてるんだい。さっさとお立ちよ。今日はね、蕎麦粉を手に入れたから、晩御飯は蕎麦粥にしよう。奮発して蕪も入れようね」
  
 その言葉どおり、夕食は、細く刻んだ蕪と道すがら摘んだ野草が入った蕎麦の粥だった。いつもと同じ、薄い、薄い粥だった。
 いただきます、と呟いたウネンに、母がにっこりと笑いかけてきた。
「いつか、すごいご馳走を、お腹いっぱい食べさせてあげるからね」
  
  
 次の日も、おばさんはウネンの前に桶を持ってやってきた。
 また次の日も、その次の日も、おばさんはウネンに水汲みを手伝うように言い、それが終わると小さなパンを一つくれた。
 ウネンは、もう、パンを断らなかった。
 いつしか、母に小屋から出されている間、母に内緒でおばさんの畑仕事を手伝うのが、ウネンの日課になっていた。
 おばさんの家には大きなお兄さんが二人いた。二人とも、ウネンに話しかけてくることはほとんどなかったが、特に嫌な顔もせず、ウネンにあれこれ仕事を頼むおばさんを、黙って見守っているようだった。
 一度、隣町にお嫁に行ったという一番上のお姉さんが、小さな子供と赤ちゃんを連れてやってきた時は、その子のお守りを頼まれた。まだ三つだというのにウネンよりも身体が大きいやんちゃ坊主に、ウネンはほとほと手を焼いたが、その時のお礼は、舌がとろけそうなほどに甘い焼き菓子だった。
  
  
 そうやって一箇月が過ぎた、ある夏の日のことだった。
 ウネンは、いつもどおり、おばさんのあとをついて水が入った桶を抱えて歩いていた。
 一歩一歩、歩みに合わせて揺れる水面が、太陽の光を映してきらきらと光っている。時折ざぷんと大波がおこって、しぶきが鼻先にかかるたびに、ウネンはくすぐったさに目を細めた。
 森のほうから吹いてきた風が、頬を撫でる。
 ふと、誰かに名前を呼ばれたような気がして、ウネンは足を止めた。
 まさか、もう母がウネンを呼びに来たのか、と、おののきながら振り返れば、道の少し先に、大きな鞄を背負った大人の男の人が一人、立っているのが見えた。
 枯れ草色の長い髪を、首の後ろで緩く編んだその人は、何かを探しているかのように、きょろきょろと辺りを見まわしている。
 ウネンの耳元で、また、風が、囁いた。
 声ならぬ声が、ウネンの身体に染み込んでいく。まるで、土の上に落ちた水滴のように、ほんの一瞬だけ表面を潤ませ、それからみるみるうちに中へと吸い込まれていく。
 気がつけば、ウネンは、消えゆく囁きをなぞるようにして、唇を動かしていた。
「ウネン、エンデ、バイナ……」
 男の人が、勢いよくウネンを振り返った。驚いた表情のまま、ゆっくりとウネンに向かって歩いてくる。
 ウネンの目の前で、その人は、しゃがみ込んだ。碧の瞳が真正面からウネンの目を覗き込み、掠れた声が問いかけてくる。
「今、何て言った?」
「え……」
 自分は、何かいけないことを言ってしまったのだろうか。ウネンが、ごめんなさい、と謝ろうとしたその時、背後からおばさんの大きな声が降ってきた。
「ちょっと、あんた! その子に何の用だい!」
「え? いや、あの」
 男の人は、困ったような顔をして立ち上がった。
「用というか、ええと、その、怪しい者ではありません」
「口では何だって言えるさ。さっさとその子から離れな。人を呼ぶよ、この人攫い!」
 その場に水桶を置いて、おばさんがずかずかとウネン達のところまで戻ってきた。そして、ウネンを押しのけ、男の人の前に立つ。
「まさか! 私は、医者です。こちらへは今日やってきたばかりですが、昨日まで、隣町に滞在しておりました。嘘だと思うなら、どうか隣町に問い合わせて……」
 男の人が話し終わらないうちに、おばさんが驚いたような声をあげた。
「隣町って、もしかして、あんたが『ヘレー先生』かい?」
「あ、はい」
 おばさんが身を乗り出した分だけ、男の人が後ろに下がった。
「ああ、確かに、枯れ草色の三つ編みだ。あたしの娘が隣町にいるんだけど、頼りになるお医者先生がやってきた、って言ってたんだよ。なんだい、隣町に腰を落ち着けるんじゃないのかい」
「あ、ええ。旅の途中なもので」
「で、お医者先生が、何のご用だね」
「いや、その、道を歩いていて、誰かに呼び止められたような気がして……、そうしたら、その子が……」
 そう言いながら、あらためてウネンを見おろした男の人が、言葉の途中で口をつぐんだ。そして、今度はまじまじと、ウネンの頭のてっぺんから足の先までを、なめるように見つめた。
 再び、男の人がウネンの前にしゃがみ込んだ。ウネンの抱える水桶を、そうっと取り上げ脇に置く。それから怖い顔でウネンの腕を手に取った。
 ウネンは、身動き一つできないまま、ただ身体を硬くした。
 男の人は、なにやらウネンの腕を擦ったり撫でたりしたのち、ウネンの目の周りを軽く押さえた。目を覗き込み、口の中や舌までも見せるように言い、最後にウネンの手の先――爪――をじっと見つめて、さっきまでよりもずっと低い声で、おばさんに向かって語りかけた。
「この子は、あなたのお子さんですか?」
 おばさんは、大きく息を吸い込んでから、「いいや」と静かに答えた。
  
  
 先生に相談があるんだけど。そう言っておばさんが男の人を連れて家の中へと入っていった。
「これ食べて、外で待っておいで」
 そう言ってパンをくれたおばさんも、男の人も、二人とも何か少し怖い顔をしていたので、ウネンは素直におばさんの家の前で待っていた。今日は畑の仕事はしなくてもいいのかどうか、少しだけ気になったが、二人のお兄さんも何も言わなかったので、木陰に座り込んで、石を弾いて遊んでいた。
  
 しばらくして、男の人がおばさんの家から出てきた。さっきとは違って、小さな鞄を一つだけ手に持って、さっきと同じ少し怒っているような顔で、一人でどこかへと行ってしまった。
 男の人を見送ってから、おばさんがウネンに、畑の草取りをしよう、と言った。いつもと変わらないおばさんの様子に、ウネンは心の底からほっとして、頷いた。
  
 日も傾き、そろそろ母がウネンを呼びに来る時間が近づいてきた。
 ウネンが、おばさんに「もう帰る」と言おうとした時、道のほうから人影がやってくるのが見えた。
 さっきの男の人と、もう一人。男の人の少し後ろを歩いてくるのは、ウネンの母だった。
 その瞬間、ウネンは身体を誰かにひねりあげられたような気がした。お腹の中のパンやら水やらが、あっという間に胸の辺りまでせり上がってくる。
 母さんに、知られた。おばさんと一緒に、しかもおばさんの畑にいるところを見られた。
『母さんよりも、余所のおばさんのほうがいいっていうの?』
 刺々しい声が、ウネンの耳元にくっきりと甦る。
 このままでは母さんに見捨てられる。見捨てられてしまう――
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!」
 頭を抱えて、できうる限り身体を小さくして、ウネンはその場にしゃがみ込んだ。こうする他に嵐をやり過ごすすべを、ウネンは知らなかったのだ。
「大丈夫だよ」
 優しい声が、ウネンの頭を撫でた。おそるおそる顔を上げれば、碧色の眼が、ウネンのすぐ目の前にあった。
「君が謝らなきゃいけないことなんて、何も無い。何も無いんだ」
 枯れ草色の頭の向こう側で、母があきれかえったように息を吐くのが見えた。
「ウネン、お前は、今日からこの人と一緒に行くんだよ」
 ウネンの後ろから、「ええっ?」と驚くおばさんの声が聞こえる。
 母は、「じゃあね」と言ってウネンに背を向けた。その拍子に、頭の横で何かがお日様の光を映してきらきらと輝いた。赤と、橙と、色んな色の石のついた、とても綺麗な髪飾りだった。