俺だけの
やっと、シキを取り戻せたような気がする。
何度も何度も唇を合わせながら、レイは満足そうに独りごちた。自分の腕の中で、シキの身体が次第に緩んでくるのが分かる。
――まったく、手間のかかるヤツだよ。
……でも、そういうところが可愛いんだけどな。
心のうちで呟いているにもかかわらず、思いのほか照れ恥かしくなって、レイはもう一度深く舌を絡ませた。力が抜けてしまったのか、シキの身体が、がくん、とかしぐ。キスだけで、こんなにも感じてくれているのだと思うと、レイはこれまで以上に高揚した。
忘れさせてやる。
他の男のことなんて考えられないようにしてやる。
「……シキ」
永いキスを終えて、レイはシキの耳元に口を寄せた。
「思いっきり感じさせてやるから……覚悟しろよ」
軽く息を呑む音とともに、シキの喉が大きく上下するのが見えた。
レイはすかさず身体全体でシキを木の幹へ押しつけた。逃げられないようにしたところで、右手を彼女の上着の裾の中へと滑らせる。
膨らみの先端を、レイの指はすぐに探り出した。そうして、撫でるように、弾くように、ねっとりと弄ぶ。
「だめ……」
「……忘れさせて欲しいんだろ?」
「そ、そうだけど、こんなところじゃ……」
「こんな山の中、誰も来やしないって」
シキが悩ましく身をよじるのを見て、レイは更に左手も上着の中へと差し入れた。両手を使い、思うさま両の尖りを優しく転がす。
シキの身体が一気に激しく波打ち始めた。
「お前、ホントにココが弱いのな」
はやる気持ちを制御すべく、レイはシキに囁き続ける。そうでもしないと、行き場のない熱に炙られ、黒焦げになってしまいそうだったからだ。
「やだ……やめて……」
「無理。もう、止まんねーよ」
シキの上着のボタンを外しながら、すっかり硬化したものをシキの腰に押しつければ、シキの喉から甘い声が漏れた。そのままの勢いでシャツも下着も捲り上げ、あらわになった突起に唇を這わせる。
いやいやをするように首を振りたくり、シキが喘ぐ。
「やっ、……こ、こじゃ……い、や……」
「って、何処でするんだ? 山小屋で? サン達に見せつけて?」
指の動きは止めずに、レイは囁いた。
「俺は別に構わねぇぜ?」
「……それだけは、やめて……」
両手で顔を覆って、シキが声を震わせる。
レイは慌てて愛撫の手を一旦止めた。
顔を隠されてしまうと、シキが本当に嫌がっているのか、恥ずかしがっているだけなのかが読み取れなくなる。調子に乗りすぎたか、と唇をかみながら、レイはシキの両手をそっと引き剥がした。
「冗談だって。他の奴になんか見せねーよ。勿体ない」
険しさを刻んでいたシキの眉間が、すっと緩んだ。潤んだ瞳がレイを見上げてくる。
「すっげ、やらしい顔」
乱れた前髪、上気した頬、濡れた唇。頬にかかる髪があれば、もっと色っぽいんだけどな、とレイは短くなったシキの髪を少しだけ惜しんだ。
――なあに。どんな姿だろうが、シキはシキだ。
レイはもう一度シキの唇をじっくりと味わった。
レイの舌がシキの口の中で蠢く度に、シキの体温は上がっていった。
しゅるり、と腰紐が解かれ、ひんやりとした空気が下腹部に触れる。快楽に思考を犯されて、もはやシキはレイのされるがままだ。
と、目の前が急に明るくなったことに、シキは驚いて瞼を開いた。
レイがゆっくりと腰を落としていく。
彼を目で追うにつれ、自分の姿も視界に飛び込んできて、シキは生唾を呑み込んだ。剥き出しになった下半身、衣服を捲り上げられて露出する胸。唯一つ無事な上着が、余計にいやらしさを引き立ててしまっているような気がする。
枯葉舞う森の中、木々の枝から差し込む夕日。自分は何処で何て格好をしているのだろう。レイの着衣に乱れの無いのを見て、シキは途端に恥かしくなった。
「あ、ちょっと、……きゃっ」
膝立ちの態勢になったレイが、右手をシキの左のひかがみにかけた。そのまま一気にシキの膝を持ち上げる。
「やっ……! レ……っん!」
外気に晒された箇所に、レイが顔を埋めた。
いやらしい水音が、辺りに響き渡る。ぞくぞくとシキの背筋を駆け上がる甘い痺れ。シキの身体はどんどんと煽られていく。
――もう、だめ。
耐えられない。
もっと……もっと、気持ち良くして欲しい……!
まるで、シキの心を読んだかのようなタイミングで、柔らかい感触が最も敏感な突起に触れた。熱を持った指は内部へ。外から、中から、シキの身体を煽りたてる。
――声が、抑えられない。
シキは思わず両手で背後の幹を掴んだ。固い木肌に爪を立て、快感に耐えようとする。だが、レイの動きは激しくなる一方だった。内部を執拗にかき混ぜたかと思えば、手前側の内壁を突く。シキの喘ぎ声は途絶えようがない。
とどめとばかりに突起を強く吸われて、シキの身体が大きく爆ぜた。
凄まじいまでの絶頂感。シキは一挙に遥か高みへと運ばれていってしまった。
「……キ」
「え」
「シキ」
「あ、私……?」
目の前には、にやにやと口の端 を上げるレイの顔。
「気ぃ失ってたぜ?」
「え? あ? ええっ?」
慌てて居住まいを正そうとしたシキは、自分が未だ先刻と同じ態勢――レイに左足を抱え込まれて、木の幹に押しつけられていることに気がついた。
「ほんの一瞬だけだけどな」
「……ゴメン」
「そんなに感じた?」
素直に頷けずに、シキは顔を真っ赤にさせて俯いた。頭の上で、くすり、とレイが笑う気配。
「すげぇ可愛かったぜ。やらしくて」
ますますシキは何も言えなくなってしまう。レイは、満足げに鼻を鳴らすとシキの耳に口を寄せた。
「今度は、俺の番だ」
レイは、シキの左足を持ち上げたまま、艶かしく滴る部分をゆっくりと貫いた。
おのれ自身で感じる彼女の内部は、とろけるほどに柔らかく、熱かった。そうして、きゅうきゅうとレイを締めつけてくる。
ひたすらに突きまくって、今すぐ想いを遂げたくなる、そんな衝動を飲み込んでレイはゆっくりと動き始めた。やや下方から上へ上へと何度も突き上げる。そのたびに、シキの喉から悲鳴にも似たよがり声が上がった。
――良い声で鳴くわりに、絶対に目は開けないんだよな……。
固く目を瞑って揺さぶられるままのシキを見ているうちに、レイの中にむくむくと弄玩の欲が膨れ上がってきた。
「シキ」
深く激しく抽迭を繰り返しながら、レイは囁いた。
シキが少し身じろぎする。
「目ぇ、開けろ」
うっすらと、シキの瞼が開いた。レイの口の中に唾が溢れてくる。
「下、見ろ」
「……え……?」
「見るんだ、下を」
レイは少しだけ動きを緩め、なおもシキに言い募る。
「見ろよ。俺が何をしてるのか、しっかりと」
「…………っ」
シキが赤い顔で硬直するのを見て、レイはごくりと唾を飲み込んだ。
――支配したい。
シキを。身体だけでなく、心まで。
俺の指で、舌で、身体で、声で、酔わせたい。いやらしく乱れさせたい。
腰の動きはそのままに、レイはシキの耳朶を甘く噛んだ。
シキの喘ぎ声が、一際大きくなる。
「だから、目を閉じるなっての。……やめちまうぞ」
震えながら、シキの瞼が、開いた。
「何が見える?」
シキが大きく息を呑む。
「俺が、見えるか?」
ぐい、と腰を捻れば、シキがレイの背に爪を立てる。
「お前が、抱かれて、いるのは、誰だ?」
レイの息も荒い。
「レ…………イ……っ」
「感じるか? 俺を……っ」
シキの瞳に、忘我の色が差す。
「俺が、お前を、……シキ……」
その瞬間、シキが大きく身体をのけぞらせた。強く締め上げられ、レイもまた限界を迎える。
「く……シキ…………すげぇ」
――嫌なこと全部、忘れさせてやるから。
官能の余韻を噛み締めながら、レイはシキを強く抱きしめた。
〈 了 〉