「知って…いつから…」「…さぁ…最近じゃないな…」
交差(禁18)
夏休み前の楢坂高校は活気に満ちていた。
「をーぃ珊慈ぃ、こないだの大会の写真出来たぞー」「お・サンクス。おお、流石300m望遠!踏み込みまでバッチリ!!」
「腕の差・って言ってくれたまえ剣道部副将殿。」「へーへー判りました写真部部長、ってゆかデジタルカメラにそろそろ換えね?」
「じゃ珊慈が説得してくれよ、『写真はフィルムの芸術だ』って力説する相模女史相手に」「うへえ、英文の相模が顧問とは、ごしゅーしょー様長崎君」
「るせ・実際フィルムの方が腕の奮い甲斐があんだよ。あ、そーだ、酢酸じき切れそうなんだ。多賀根先生にお願い頼む」「おー、じゃ後で持ってくわ。明日でもいーよな」「だんけ!」
友人の写真部長(と言っても部員全員で4人しかも3人が一年生)と別れ、彼から受け取った試合写真を眺めた珊慈はその内の一枚にふと目を止めた。
暫く考え込み、辺りを見回しながらそっとその一枚をズボンのポケットに捩じ込んだ珊慈は部室に向かって歩き出した。
「んふぅ…」「感じやすいんだ、ナオちゃん」
モーテルの一室、長髪のセーラー服相手に後ろから抱き抱えるように愛撫をする裕也は、今日の相手に満足していた。
軽い気持ちで声を掛けたら「二枚ほど苦しーのよねー、お腹も空いたしぃ、ど、しょっ、か、なー」交渉結果、三枚でOkが出て今現在に至る訳だが。
実際、化粧は厚いがスタイルも感度も良く、久々の『当たり』に彼は喜んでいた。
ジャケットの下にセーラー服ってのには、ま、アレだったが、今は服ぐらいじゃ年齢なぞ判らない訳で。
服を脱がせるのももどかしく、愛撫もそこそこに彼はスラックスごとパンツを脱ぎ捨て、起立した物にラテックス製品を装着した
「さ、そこに手を付いて」「い、嫌ぁ…恥ずかしい…」
壁の姿見に両手を着けさせて、スカートを腰まで捲り下着をずらしただけのそこに裕也は舌を這わせた。期待していた通り、薄い毛に隠されたそこはしっとりと濡れ、肉芽も包皮から頭を出している。
「あ、あふっ、ひっ!うぁ!」「凄い、いやらしい…」「はんんっ!んひっ、ひんっ!」
舌が肉芽を転がす度に、甘い矯声が鈴の様に鳴る。沸き立つ興奮に彼は更に愛撫を強めた。
「きゃふっ!んぁ、んっ、んぁぁぁん!嫌ぁ、もう、もう、はぁぁぁぁぁっ!」「あぁ、俺も、もう、我慢できないよ。いい、入れるよ?」
立ち上がった裕也は十分に濡れたナオの亀裂に肉棒をあてがうと、一気に貫いていった。
「ひっ、いひっ、ひはぁっ!」「鏡、見て、すっげ、やらしー、エロいよナオ」「あ、ぁぁぁぁぁっ!んはっ、はっ、はっ、はっ、はぁっ!」「くっ、きつい…すげー締め付け…」
汗まみれになりながら腰を振り、絶頂を目指す。床にはポタポタと汗と愛液が垂れて獣逹の唸りが高まってゆく。
「あ、もう、出る、出る、ぁぁっ!」「ふぁ、んはぁぁぁぁぁっ!」
絶頂を迎え、肩で息をしながらナオを振り向かせ裕也は舌を絡める。ナオも大人しく舌を返して2人は熱い刹那の余韻に酔いしれていた。
剣道部の部室に試合写真と焼き増しの注文用紙をを貼り出した珊慈は、化学部室足を向けた。
「ちーす、多賀根先生・居る?」「よー、珊慈、こないだの試合の3人抜き、お見事」「あ、高嶋君、多賀根先生…」
「流石だな高嶋、顧問の『副将のお蔭で面子が潰れなくて助かった。』と言う台詞を直に聞かせてやりたかったよ」
白衣の多賀根が薬品棚から酢酸原液を出しながら珊慈に向かって称賛の言葉を送った。
「そろそろ写真部が薬品を頼みに来る頃だと思ったんだが」「先生ビンゴ!」「ついでに高嶋、下の棚から蒸留水を出してくれ。有馬君は調合の準備を、原田はポリタンクを、そうその白いのを下ろしてくれ、柏木…は今は地学部に行ってるな。」
ワイワイと騒がしくなった化学室内、嶺が多賀根と準備室に入ったのを横目で見て、珊慈は志紀に「後で話があるんだ、部が終わったら教室に来てくれ、内密に。」と早口で伝えた。驚いた顔をした志紀が口を開く前に珊慈は準備室に声を掛けていた。「先生・俺ちょっと剣道部にまだ用事あるんで、行ってきますけど。写真部には明日俺が持ってくんでー」「おー、行ってこーい」
「いゃ、今日マジ楽しかった、も・最高」「ふふ、ありがと」銀の国産車の助手席に収まった『ナオ』は気だるげな笑顔で裕也に答えた。
「な、次、いつ会えるかな?ケータイ教えて、マジ即連絡するし。」「残念、料金未払いで解約中」「げろ最悪、ぢゃ、今回の約束の三枚と、これ俺のメアド。」「サンキュ、これでケータイ使える。」近場の駅前で下ろしてもらう事は車に乗る前に話してある。10分ほどのドライブの間、話しかけてくる相手に適当に相槌を入れ、『ナオ』は窓の外をぼんやり眺めていた。
教室にぶらぶらしているとじき志紀が現れた。
「高嶋君、何か?」「あ、悪い、わざわざ。実はさ、川村さん今日早退しただろ?」「あ、うん。」「実はさ、一寸演劇のやつから預かり物があって、出来れば直接川村さんに渡したいんだけど、いや、本当は有馬さんに預けたいけど、俺頼まれたからさ。」「ん、判った。私も一緒に行こうか?」「頼む…って原田と今日一緒に帰るんだろ?俺まだ部で時間かかるから場所教えて。後で直接行くから」「じゃ、地図書くね…」
志紀が教室を出たあと、珊慈はため息をついてポケットから写真を引っ張り出す。そこには小手を決めた珊慈の姿と、あらぬ方を向いた三つ編みの少女の姿があった。
駅のトイレで『ナオ』は化粧を落としていた。傍らの紙袋を掴み個室に入り、慣れた手つきで着替え始める。
空の紙袋に着ている服を下着までまとめて突っ込み、もう一つの紙袋から別の制服をハンガーごと引き出し、壁に掛け、さらに取り出した大人しめの下着を身に付ける。制服を着てハンガーを仕舞い、髪を三つ編みに結い上げ、人気の無い事を確認して水を流し、個室を出た。
洗面台に立った『ナオ』は、鏡の前でおかしな箇所がないか確かめ、改めて鏡を見つめ、目を閉じる。
『ナオ』から『私』に意識を切り替える。いつもの(演・技)のように、役柄に自分を乗せ、イメージを浮かべる。
そっと目を開いたそこに『ナオ』はいない。姿を消した『ナオ』の代わりに、そこには柔らかな笑みを浮かべる三つ編みの制服姿の『私』が立っていた。
言葉も無く立ち竦む珊慈の目の前で、理奈は…
…鼻を垂らしていた。
「ね…姉ちゃん、そりゃないょ~」「ふが」「…を~い、生きてるか~」「あで?だがじばぐん?どじだの?」
…少し前、預り物を渡したら直ぐに帰るつもりだった珊慈は、挨拶のとたんに混乱の渦中に巻き込まれていた。
「む、娘の見舞いに男がくるなんて!!明日は天変地異よ!!!」「な・なにぃ?!姉貴!いつの間に!くそぅ、絶対俺の方が先だと思ってたのにぃ!裏切り者め!!」
「あぁっ!お茶菓子〃~ってあんた又つまみ食いしたわね!」「おやつだってさっき二人で姉貴の分まで食ったぢゃん!」「あああそうだった~!一寸母さんひとっ走り行ってくる!あとおねがい!」「財布財布!」「きゃー!あ・オホホホホッ、ど、どーぞごゆっくり~、ぢゃ行ってきま~す!」
…『子は親に…か…』…
なんとなく無力感に包まれつつ、珊慈は理奈の弟に連れられ、二階の理奈の部屋に案内され…
「姉ちゃん!彼氏の見舞いだぞ!」と珊慈が否定の声を上げる間もなく、勢い良く開けたドアの向こうには
…鼻水垂らしてこっちをぼんやり見てる理奈がいた訳だった。
ぢゃ、俺はお邪魔だろーからと弟君が出ていって、鼻をかんだ理奈がため息混じりに話し出した。「ごべんで、だがじばぐん、ざばがぢいぶぢで」「あ~、いーから寝てろ。」
起き出そうとする理奈を制し、珊慈はマル秘と赤文字でデカデカと書かれたぶ厚い茶封筒を渡した。
「ほれ、演技部員。これを渡してくれと演劇部長様直々のご依頼により参上したんだが…」
珊慈は改めて部屋を見回す。いかにも演劇部員な部屋にはヅカジェンヌのポスターやらいかにも『演劇用衣装』らしい服が下がっている。
「いゃあ、やっぱ女子の部屋は違うよなぁ、華やかだ。」
「う゛ぶぶ、びばざだごんだぢょぼでびだごどぎぎづぐどば、ぼぬぢぼばだばだぢゃどぶ。」
「いや何言ってるか判らんのだが。まぁその分なら明日1日寝てりゃ治るだろ。ま、俺は鍛え方違うからうがいでもしときゃ大丈夫だろし。」
「…ばがばがぜびかない…」「…聞かなかった事にしとく。んぢゃあな。」
部屋を出る前にもう一度珊慈は回りを見渡す。机の上には劇団員らしき姿の映った写真立てが幾つも並んでいる。
ドアを開けるとお約束の通り、いつの間にか帰って来てた理奈の母と弟が各々コーヒーとケーキの盆をもって座っていたりしたが。
理奈の家を出て、珊慈はポケットから写真を抜き出して一頻り眺めてため息をつき、いつもなら多少の距離なら歩いて帰る所を電車に乗る為に駅へ向かい歩いていった。
『私』は駅前でチラシを配っていた。援助までして更にアルバイトをする訳は、1つにはアルバイトが援助の隠れ蓑になっているからだ。
親は知らないが部活はとっくに辞めた。出来た時間は三時間。親にアルバイトを三時間と偽れば更にその後二時間近い時間が空く。ならばたとえ休憩が延長になってもバイトを休めば身支度を整えて何食わぬ顔で家に帰れる。
そして何より大切な事は、私には少しでもお金が必要だと言う事実。そんな意味でも週三日のこのアルバイトはとても好都合な訳だ。
「どうぞー、明日からセールでーす。チラシの割引券をお使いくださーい」
今日のチラシは割引券付きとあってサクサク捌ける。この分なら余った時間でもう一度援助も…と考えた私は慌ててそれを否定する。
危険は冒す訳にはいかない。そうでなくとも援助などと言うリスクの高い行為をしているのだ。ノルマは確実にこなしている。少しの欲望が破滅を招く事は十分承知している
ふと視界に見慣れた姿を捉え、迂闊にも私は視線を向けてしまった。目と目が合った瞬間、私は世界を呪った。一番今の姿を見られたくない相手だった。
その相手…高嶋珊慈は私の願いも虚しく、やはり声を掛けてきた。
『里菜先輩』と…
「里菜先輩」
珊慈は思わず声に出し駆け寄っていた。高橋里菜…去年の剣道部副将…そして…
駆け寄ったは良いものの、珊慈は何も声が出なかった。胴着姿か制服姿しか知らなかった里菜先輩は今、何やらキャンギャルっぽい割とセクシーな格好で、正直目が合わなければ気付かない程の変わりようで。
「久し振りね、高嶋君…いえ、珊慈。」彼女の声に我に帰った珊慈は慌てて挨拶を返した。「高橋せ…里菜先輩こそ、お久しぶりです。」
上擦った声に彼女は「もうじき終るから、少し待てる?」とあの優しい笑顔で聞いてきた。
少し離れた場所のハンバーガーショップの二階で二人が顔を合わせたのは時計の長針が1/4程廻った後だった。
「本当に久し振りね珊慈」私は彼を見つめる。眩しくて、目が眩みそうになる。真っ直ぐな・彼の・姿。
「…色々と聞きたい事、在った筈なんですが…」
何も入れないアイスコーヒーをかき混ぜながら、彼は言葉を紡いだ。
「…里菜先輩の顔を見たら…なんか、どうでも良くなりました。お元気そうで何よりです。」
真っ直ぐ、本当に真っ直ぐ見抜く視線。あの面体を通しても射抜かれるような視線が、私を優しく貫く痛みに汚れた私は泣き出しそうになる
駄目だ。本当に泣き出しそうだ。大声で泣き叫びたい衝動を笑顔の仮面の下に押さえつけ、私は微かに震える声で彼に告げた。
「場所…代えましょ。」
無人受け付けのラブホはこんな時便利だ。しかもカラオケ付きのここはこの手の店にしては防音も割としっかりしている。部屋を取り、一歩中に入った途端、限界がきた。熱い何かが込み上げて来て、頬を伝う。
「珊慈、ドアを閉めて。」震える声でそこまで言うのが精一杯だった。
嗚咽に気付いた珊慈が私を抱き止め、なんとか床に崩れ落ちずに済んだ。振り向いた私は彼に抱き着き、大声で泣いた。
…衝撃・だった。
ひとしきり泣いた後、彼女の告白を聞いた俺は只黙って彼女を抱き締めるしかできなかった。
…私は彼に全てを話した。
溢れ出る衝動を言葉に代え、私は彼に全てをぶつけ・そして、彼を求めた。
「あ…ん…」彼女…里菜の白い裸体が舞うように俺の体を愛撫する。抱き締める俺の手の中で悶える里菜の感触に溺れながら、耳の奥に届いたあの会話が胸の奥に響く。
「珊慈…お願い、聞いて欲しいの…あなたに…」
「貴方が入学した年に、1人の生徒が辞めた事…知ってるかしら…」
「彼はね、ある生徒と恋仲だったの。だけどね、親に見つかってしまったの。」
「それでも、普通の家庭や普通の愛し方ならそれはなんとかなったかも知れない…いえ、やっぱり駄目だったわね…」
「女の家は伝統や流派なんて事に縛られてたし、男は縛る事でしか女を愛せなかったの。」
「笑っちゃうわ、彼と彼女が何で出会ったと思う?女が自慰してるのを男が襲ったのよ!レイプされて…それも自慰の想像通りに…なのに…私は彼を以前から愛していたのに…彼は自分の行為に怯えて…私の愛を信じてくれなかった!!!」
「私は彼の愛を受け入れたわ。欲望も。それでも!彼は私を信じてくれなかった。そしてあの日、私は自分で自分を縛って彼に会ったの」
「彼は初めて私を信じてくれたわ。そして初めて私達は深く愛しあえたの。」
「だけど…家に知られてしまった時、彼は…」
「なんとか警察沙汰にはならなかったけれど、私は忘れようとしたわ、過ちだったと…気の迷いだったと…」
「私は誓いを立てたわ、これから一年・一度でも後輩に負けるようなら剣を捨てよう・もし一年負けずに進めれば、剣に一生涯を捧げようって。」
「珊慈君、覚えてる?私から一本奪ったあの夏合宿。ふふ、忘れようが無いか、なにしろご褒美に君の童貞頂いちゃったものね。」
「正直、ショックだったわ。なにしろ私から剣道取ったら、本当にやれる事が無いって気付いちゃったんだもん」
「その時、判ったの。私、自分の気持ちに嘘をついて逃げていたんだって。負けて、あの人の姿が自然に出て来たのよ。そう、あれは錯覚でも気の迷いでも無かった。わたしは彼を愛してた…いえ、愛してるって」
「だから、あの日のあれは君への心からのお礼。気にする必要は無いわ。」
「…でね、あの後私、彼の消息を調べたの。親に内緒だから最初は苦労したけど。で、何とか足取りは掴めたんだけど、それからどうすればいいか考えて、押し掛けてやる事にしたの。」
「でも只押し掛けてもどうせ連れ戻されるわ。だからある程度我慢してお金を貯めて、資格も取ってから行こうと思ったの。」
「…ええ、なんでもしてるわ。こんなチラシ配りだけじゃなくて、その紙袋の中、左の…ええ、ご想像通り。そんな訳で時間が無いから部活を辞めたの。」
「でも援助は今日でお仕舞い。~実はね、始めた時に一つ決めてたの。援助でもバイトでも、知り合いに逢って気付かれたら援助は止める。その代わり免許や資格を取る時間に使おうって。」
「目標より少し少ない額だったけど、普通なら無理な額は稼げたし。ふふ、貴方が最後でよかった。」
「あっ!あぁぁあぁぁぁっ!」矯声に珊慈は回想から我に帰った。いつのまにか珊慈は里菜を組み敷いて腰を激しく打ち付けている。
揺れる乳房、絶え間無く響く快楽の叫び、細い腰を押さえつけ、更に奥へと快感を求めて突き込む。そして限界を越え、二人は刹那の交わりに溺れた。
「高嶋√!」普段より1オクターブは高い声で科学室に川村理奈が飛び込んで来たのは二日目の放課後だった。
「た…高嶋君なら」「確か」「写真部に」「この間の試合写真の焼き増しを取りに行った筈だが。」
「ちっ、逃げたか!サンキュー御一同様!」
「「「何だありゃ?」」」
「…さぁ…」
誰もいない写真部室で、珊慈は一枚の写真を手に物思いに耽っていた。
「いたな高嶋~!」
静寂を破って飛び込んできた演劇部員に珊慈はチラリと視線をくれて「なんだ、川村か」と呟き、視線を窓に移した
「なんだぢゃない!お・お・お前あたしん家に来て何をした/!!」「演劇部の機密書類とやらを届けたが」「それだけで家中があんな騒ぎになるか√!」「声裏返ってるぞ…て何があった?」
「何だと!お袋は赤飯朝から病人に食わせようとするわ弟にゃ『ねーちゃんあれはねーよ』とか訳解らん台詞吐くわ親父は熱出してぶっ倒れるわ!良く良く問い詰めたら『高嶋さんってねーちゃんの彼氏が来た』ってどー!…なんでコケルんだをい!」
「…なぁ、それだけの勢いで俺に文句言えるなら、本命にとっとと告白したらどーだ?恋愛に遠慮は無用だぞ?」
理奈は顔色を目まぐるしく変え、金魚か鯉のように暫く口をパクパクさせて…
いきなり人見知りな小学生のような小さな声で尋ねた。
「知って…たの…?」
「かなり前から」
確信を持ったのはあの試合写真。理奈の視線は応援集団の中の二人組の一人…原田嶺に向かっていた。それも寂しげな笑顔で。
理奈の机の上には有馬と川村、そして原田が三人一緒の写真が一枚だけ、ズカジェンヌの集団のなかに混じっていた。
天井を仰いだ理奈は、ギクシャクした動きでわざとらしく「あちゃー」と言った。
そんな理奈に視線を向けず、珊慈はぼそりと呟くように。話し出した。
「なあ、川村。川村はそれでいいって決めたんだろ?なら俺がどうこう言う必要はない。けどな、辛い時は頼ってもいいぞ。」
「え゛?」
「キープ君でもいいぞ。って事だよ。いつか本当にお前か俺に好きな奴が出来るまでの。」
「うわ下心丸出し」「あたぼうよ、こちとら楢坂よ」「な゛に゛ぞ れ゛意゛味゛わ゛が ん゛な゛い゛」理奈はいつのまにか泣いていた。泣きながら笑っていた。涙の流れるままに笑っていた。
…川村の鼻水見るのは二度目だな…口に出したら殴られるだろう感想と共に、あ、リナに失恋したのは二度目だなと珊慈は少し寂しく、そして何故か誇らしく思った。
<了>