歩幅
「待ってよ」
初めて彼女と一緒に帰った日、彼女はそう小さく口を尖らせた。
のっぽ、とか、長い、とか言われる僕と比べるまでもなく、彼女はとても小柄で、少し油断するとすぐに歩調が合わなくなってしまうんだ。
でも。
「遅いよ」
二日目、今度は彼女は頬を膨らませて僕を振り返った。
彼女を急かしてやいないか気にするあまり、少し歩速を抑え過ぎたみたいだった。
しっかりしろ、と自分を叱咤して三日目、今日。
眼鏡の隙間からこっそり彼女の歩幅を確認して歩いていると、彼女が大きな溜め息をついた。
何かマズったか、と息を詰めた次の瞬間、僕の手に何かが触れた。
「……こうすれば、いいんじゃない?」
少し照れたようなすまし顔が、僕を見上げている。
暴れだした心臓の音がバレませんように、と天に祈りながら、僕は彼女の手をそっと握り返した。
〈 了 〉