あわいを往く者

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アイオライトの心臓

 
異常な痣とともに少年ロクドは生まれた。
左の指先から手首までを、深い深い暗闇の沼に浸したような、異常な痣──それは、彼の人生を決定づける、忌まわしい呪いの印だった。
呪いを解くため、そして再び家族とともに暮らすため、少年は旅に出る。
魔術師カレドアのもとで修行を積みながら手がかりを探すロクドだったが、ある静かな夜、街で奇妙な少女に出会い……。
大陸の北西に位置する架空の国家を舞台とした、呪いの謎を紐解く魔法と貴石の正統派ボーイミーツガール系ハイ・ファンタジー。
(サイトの紹介文より)
 
 故郷の地に埋められていた禍の種を一身に引き受けた少年ロクドと、あまり他人と深く関わろうとしない魔術師カレドアが、ひょんなことから結んだ師弟の縁。光纏う不思議な少女との邂逅を経て、そこにもう一組の魔術師師弟の軌跡が重なり、やがて呪いの謎は、五百年前に葬り去られた悲劇を炙り出す。
 瘴気の大平原、光の神の加護を受け何百年と回り続ける風車、ひたひたと近づいてくる恐るべき奇病、悲劇、そして破滅。物語そのものもとても好みですが、それを支える世界観にも興味を惹かれました。カレドアが魔術についてロクドに語る場面の、なんとわくわくすることか!
 それに加えて、登場人物達がまた魅力的で。師弟コンビのなんとなく血圧低めな関係は言わずもがな、例の魔術師の兄弟弟子コンビのバディっぷりにも心臓を射抜かれました。いやあ、いいわあ、むっちゃ好き。
 読み応えたっぷりの正統派ファンタジー、とても美味しかったです。

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金枝を折りて

Windy Hill  
田舎村の少年シェイダールは神託により父を喪った。以来、神はいないと信じている。だがそんな彼が、新たな王の候補者に選ばれた。神の力を身に宿す王、その力を受け継ぐべき者として。
いもしない神に支配される国など変えて見せる――決意と共に王宮へ向かったシェイダールの前に、王殺しの儀式と太古のわざが立ちはだかる。
謎と秘密、絡み合う思惑の中を手探りで進む彼が目指すのはひとつ。
「もう誰も、神のために死ななくていい国を」
(サイトの紹介文より)
 
 神のちからを用いて政を執り行う王。その後継者は世襲に依らず、ちからの器たるべき資質によって決定される。類稀なる能力を見出され跡目候補の一人として選ばれたシェイダールは、神を信じないがゆえに初めのうちこそ反発するものの、人々の幸せのために、大切な人の命を守るために、いにしえの秘術の謎に立ち向かう。
 ともに苦難を乗り越え信頼を築く主従の他、登場人物達がとても魅力的で、各所で萌えツボを突かれまくりました! が、やはり特筆すべきは、色や音、《詞》を使う神秘の術、ウルヴェーユ(彩詠術)。読むほどに、見えるはずのない「ちから」がまざまざと脳裏に浮かび上がってくるようです。
 信仰と人智と、感情と理性と。物語を楽しみながらも、神秘のわざが炙り出す幾つもの命題を考えさせられずにはいられません。
 激動の果てに迎えたラストシーン、かつての彼らの姿が思い出され、目頭が熱くなりました。

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雑種の少女の物語

 
雨の夜、陵辱された少女は狂気に取り憑かれて街を去る。
精神の抜け殻となってさまよい歩いた少女は地下迷宮と化した古代都市へとたどり着き、狂人のまま魔物たちの姫君として祭り上げられていく。
(サイトの紹介文より)
 
 恐怖と絶望に蹂躙された少女は、狂気を供に魔の森へと迷い込む。
「語り部」の穏やかな語り口とは裏腹に、物語の始まりはあまりにも衝撃的です。控えめな描写にもかかわらず、なまじ文章が流麗なだけに、おぞましい出来事はするすると脳内に注ぎ込まれ、脳裏に結ばれる情景は目を背けてしまいたくなるほど。
 ですが、仄かな明かりがひとつ、ふたつ、と地下迷宮の中に灯り始めるにつれ、みるみるこの物語の虜となってしまいました。
 闇は光に、不幸は幸せに、恐怖は愛に。白虎や山羊頭といった魔物達が素敵でね。いわゆる冒険者として相対したらば、死ぬほど恐ろしい敵のはずなのに。人間と魔物、異なる二つの価値観のはざまで穏やかな日々を送る「雑種の少女」の可愛いこと。
 やがて運命の歯車が軋みながら回り、物語は容赦なく終焉を迎え、そうして気づくのです。誰もが――読者であるはずの自分さえもが――物語の登場人物となっていたことに。……うわー、やられた。気持ちよく、してやられた。ほんと最高。
 嗚呼、「雑種の少女」に幸あれ!

 この物語は、前にご紹介した図書館ドラゴンは火を吹かないの前身ともいえる作品だそうです。図書ドラが気に入った方は是非こちらの物語も読んでみてください。でもって、図書ドラ未読でこの物語が気に入った方には、全力で図書ドラをお勧めしますぞ。

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女神の柩

Windy Hill
  • 作者:風羽洸海 様
  • 掲載サイト:(現在WEB非公開。作者様のサイトに詳細有り)
 
心にうつろを持つ官吏ミオは、帝国の西北果てで伝説の虎狼族と出会う。
人生に虚しさを抱えた官吏シンは、辺境の砦から馬賊の若者に拉致される。
それぞれが知らされたのは、忘れ去られた歴史。そして再び、いにしえの魔術と女神の伝説が語られる。
(サイトの紹介文より)
 
 壮絶な時を紡ぐハイファンタジー。一話の前書きに「ハッピーエンドにはなりません」とあるとおり、読み進めるほどに、もどかしさと、やりきれなさと、悲しみに、胸をかきむしらんばかりになります。
 ですが、結末が幸せか否か、というのは、あくまでも登場人物の物差しで判断してのこと。そして、この話はそういうスケールで見るべき物語ではありません。言うなれば、「世界に呑み込まれる」醍醐味を味わう物語。彩詠術を始めとする独特の世界観も素敵でね、本当に、これぞファンタジー、って感じがたまんなくてね!
 静かに積み上げられた全てが一気に崩れ落ちるクライマックスには、涙腺決壊と同時に鳥肌が立ちました。ああもう、ヤラレタ。見事に心を持っていかれました。

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